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本サイトでは、保育士経験しかない中で一般の会社に転職したい人向けに、その業務経験をどのようにアピールすればよいか、詳しく解説します。




保育士経験から一般企業にアピールする

その業務を端的に取り上げ、それがビジネス視点でどのような成果だったかを説明します。また、成果があまり大きいものでなくても、自分で取り入れた工夫やプロセスがしっかりと説明できれば評価されます。保育の業務が色濃く出るようなアピールや、深掘りはあまりしません。

1. コミュニケーション力
(価値観の違う同僚保育士との協業)

保育園では、各園でのそれぞれの思想やポリシーをもって日々運営しています。同時に、保育士ひとり一人も自分の信念、考え方があります。
・とにかく安全第一で子供を守る
・文字や数字の学習、知性を強化しよう
・絵本の読み聞かせを重視、想像力を育む
・運動、体操で体を動かすのが健康的
・音楽をたくさん取り入れて感性を磨く
・園児教育より親のクレーム対策が優先
・園長の指示に忠実に従うべき
・昼寝させてる時間が私達の本当の業務
・優先なし、すべてまんべんなくやる
・季節やイベントに応じて臨機応変にやる
など、一口に保育士といっても、どこに重きを置くかは十人十色、多様な価値観の人たちの集まりです。

そんな中で、円滑に保育業務を進めていたということは、高いコミュニケーション力があった裏付けになります。コミュニケーションスキルを発揮した、アピール事例をいくつか挙げます。

  • 自由時間を運動にあてたいスタッフと、音楽にあてたいスタッフの間に入り、「音楽に合わせて体を動かす」という両方を盛り込んだ提案をして妥結させた。両方重要と判断し、win-winの結論を導いた良い事例だった。
  • おゆうぎ会衣装手作り派の私は、外注派といつも意見対立気味だったが、メリットとデメリットをまとめて、手作りアイテムと外注アイテムの区分けをし、両者納得した。0か1か、ではなく、本質をとらえ、それぞれの要素がどうあるべきか最適な方向に導けた結果だった。
  • 現場で他のスタッフと意見の対立時、その場では反論せず、後日落ち着いてから、客観的意見をまとめて、あらためて具体的に話し合うことを提案するようにしている。
    自分の意見だけを押し付けたり、理由もなく単に受け入れたりするのではなく、お互いの意見の客観的に良いところを抽出することが重要である。

たいした内容ではありませんが、このように口論やけんかを避けて、最良の結論を冷静に導く姿勢は、どこでも必要なビジネススキルです。
じゃんけんや多数決でなく、どうすれば両者納得できるか、また本質的な問題は何なのかを見極めて結論に向かうアピールが効果的です。




2. ユーザー目線で新アイデア
(新しいイベントの企画)

会社では、事業企画だけでなく、課やグループ単位でも新しいやアイデアや取り組みにより成果を上げなくてはなりません。一人ひとりの発想力に期待がかかります。
保育園では、納涼祭、クリスマス会、運動会、誕生会などさまざまなイベントがあります。それ以外の小さなイベントやリクリエーションでも何でもいいので、自分で考えて提案した事例があれば、アピールします。

  • 保育参観日は、年に一度開催されるが、数時間で、日頃の様子を網羅して伝えることが難しいため、年に2回開催を提案。暖かい時期に、運動やダンスなどを中心としたアクティブな保育、涼しい時期に、お絵描きや、もじかず、手遊びなどの屋内保育で保育参観を開催。これにより、保護者に保育内容を十分に見ていただけるようになった。
  • 園児たちの作品展示会を提案した。日頃から園内に展示はしているものの、送り迎え時にゆっくり見てもらえないため、日曜日に園内で作品展示会を開催した。自分の子供の作品と他の子との比較もゆっくり楽しみたいという、保護者の気持ちに配慮した提案だった。
  • 今の時代は頭を使うことが大切なので、文字書き、数字、といった「お勉強」だけでなく、知恵をつける訓練や、簡単なプログラミングの考え方を学ぶリクリエーションを提案した。時流を読んだ提案で、保護者からの評判は大変良かった。

「保育」という一見ルーチンワークに思われがちな仕事でも、これだけ新しいアイデアを日々模索しながら、取り組んでいることをアピールしてください。保育業務の対象は、園児とその先の保護者です。園児だけでなく保護者に向けたカスタマーサービスの意識もある、ということは、ユーザー目線をもっている証拠。ユーザー目線は会社には必須のスキルともいえます。

3. リーダーシップ
(作業分担、日常業務での指示)

日頃の保育で知らず知らずのうちにリーダーシップを発揮していることは、結構多いものです。
たとえは、保育園におゆうぎ会や運動会の準備で手伝ったり、手伝ってもらったりします。このときに、自分で確たる信念をもって、他のスタッフを巻き込み、自分の指示で作業を進めた経験があったらアピール材料に使います。
自分が下っ端であっても、先輩保育士たちに、「これとこれの制作をお願いします。終わったら、こちらのサポートをお願いできますか?」と伝えたら、それは、作業の分担や手順を自分で指示したことになりますので、立派なリーダーシップです。
もちろん普段の何気ないやり取りも、うまく言うことで、リーダーシップを執った経験になります。

  • 運動会で、会場の飾り付けリーダーになった。3人の補助役を指揮して作業を展開した。3人から意見を吸い上げて、まとめてからコンセプトとレイアウトを園長に報告、了承を得て、作業分担を指示して進めた。期日までの終了が困難と判断し、応援を要請して増員して作業し、無事に終了した。計画、分担実行、人員調整といった、全体を見ながら的確に判断し、人を動かしてリーダーシップを発揮する良い取り組みだった。
  • おゆうぎ会で、衣装を手作りする際、制作担当3人に手芸のスキル差があった。制作日程には期限があるため、裁縫系の作業は、手芸の得意なスタッフに担当してもらうよう提案、私を含めた2人は塗り貼り系作業に徹し、来年までに手芸のスキルアップを宣言
    作業の難易度に応じて適材適所な担当で、最短での完成を推進する、良い采配事例だった。スキル不足も明確になり、弱点補強へのきっかけも提案できた。
  • 連絡帳への記入は、基本的に担任をもつ自分がやるようにしているが、サブ担任2人との分担推進を進めてみた。朝のうちにサブ担任に、連絡帳担当の園児の行動を特に重点的に観察するよう指示した。連絡帳記載事項は、全体の出来事半分、当該園児特有の部分半分で、統一した書き方を基本として記入。自分で手を動かすだけでなく、人に動いてもらい、自分は上位の仕事をする、そして成果物品質の統一を図る指示を出す、という取り組みの小さな一歩であった。

リーダーシップは、自分の業務をすべて自分でやるのではなく、人を動かして最善の成果を出すことです。指示を間違えると、ふりだしに戻るだけでなく、その担当者にも迷惑がかかります。全体を見て、日程を見て、人を見る、進捗を見ることが重要です。業務遂行が芳しくない、担当者のスキルが不十分、などの事情があれば、担当者のスキルアップ教育を視野に入れて進める、という観点も取り入れましょう。




4. 問題解決
(クレーム対応、風土改善)

保育業務に限らず、どんな仕事でも日々問題解決です。些細なことでも説明の仕方によって、際立った問題解決能力に聞こえます。

  • 登園/下園時の入力用共通タブレットが不潔、やめてくれとのクレームあり。まずは、朝番担当者が出勤時にアルコール消毒することを提案した。「毎朝消毒しています」との貼り紙をタブレット近くに掲示。恒久策として、抗菌フィルムをタブレット画面に貼り付けることにし、同じくその旨を貼り紙に追記し、周知した。タブレットの使用は運用上必要なため続行する、という毅然とした対応をするが、できる対策は講じる姿勢を見せて譲歩した。
  • 近隣から、下園時間帯がうるさい、とクレームがあった。園児、保護者に、下園時は園前にたむろせずに速やかに帰宅する旨を周知した上に、近隣住民に見える場所に、「近隣住民に迷惑がかからないよう速やかに帰宅」貼り紙を掲示した。近隣住民はこのような対応により安心し、また速やかな帰宅が促進された
    この園は、ちゃんと対応してくれている、と感じられるような、アピール込みの対応が効果的だった。
  • わがままで自分勝手なスタッフひとりに、園全体が迷惑を被っている状況。ワンマン園長自らの紹介で採用している手前、「あの子はよくやってくれている」とのことで話にならない。
    そのスタッフには、改善して誠実な言動で仕事をしてもらうために、とにかく一度は賛同してから客観的な会話に持ち込む/何かを協議するときには必ず呼ぶ/何かサポートしてもらったときには少し大げさにお礼を言ったりメモでお礼を残す/毎朝笑顔であいさつする、など、さまざまな対策をした。結果として、そのスタッフの態度は、素の部分は同じだか、わがままな言動が少なくなった。また園のスタッフ全体の雰囲気も良くなり、組織的に風土が向上した。

問題は、外にも内にもあります。
・暫定策を取ってから恒久策に移る動き
・問題解決を実行するアピール
・真っ向から立ち向かわず徐々に改善
といったさまざまな解決アプローチがあり、臨機応変に対応する姿勢がアピールできるといいです。

5. 人材の育成
(後輩保育士の指導、教育)

後輩スタッフに何かを指導するだけでも、立派な人材育成です。ただ教えた、というだけではなく、ポリシーをもって体系的に育成した、という言い方が望ましいでしょう。

  • 教育用の保育マニュアルというものがそもそもないので、自分なりに、保育、生活、園児、保護者、庶務、などカテゴリー分け、ステップ分けして教育マニュアルを作成した。普段の保育業務を標準書に落とし込み、教育資料の基礎ができあがった。
  • 概略の説明の後にOJT(On the Job Training)で吸収する部分、しっかり説明して理解の上で取り組んでもらう部分で区別した。うまくいったこと、うまくいかなかったこと、など日報をまとめて提出してもらった。自分で1日の仕事を振り返ってもらうことで、自ら気づかせて成長する仕組みを作った。
  • 仕事のスキルをステップアップするには、日常の仕事だけではなく、自分の時間を使って自己啓発学習する必要もある、という「学び」の大切さも教えた。

人材の育成は難しいのですが、人を育てようという視点をもっていることが重要です。具体的な内容を教えるだけでなく、
・仕事の中で日々成長を感じる
・成長できる環境や仕組みがある
・後輩が自ら成長する意欲をもつ
といったことが必要です。このようなことを実現するために園長に提案したことがあれば、アピールになります。
また、自らもこれから学び続ける気持ちがあることを示します。


6. ファシリテーション
(会議での司会進行)

園内でのスタッフ間での会議、保護者との懇談会、同じ地域の保育園・幼稚園との打ち合わせ、など話し合いの機会は多いと思います。その際にまとめ役や書記のような役割を担ったことがあれば、アピール材料になります。

  • 職員会議で書記を担当することが多かった。単純に議事を板書するのではなく、話し合う議題、詳細、結論をあらかじめホワイトボードに書いておき、話が発散しないように、方向性を導きながら短時間で結論に到達できるよう工夫していた。
  • 保護者との懇談会では担任が主に話し、副担任の私は、ファシリテーション(進行役)に徹した。時にヒートアップしそうなときには、中立な立場に徹し、意見の本質部分を抽出し、「こういうことでよろしいですよね」「先ほどの要望に戻りますと」など、合いの手を入れて、双方の納得する結論を得られるよう心掛けていた。

会議での司会進行は、時間内に円滑に事を運ばせる大切な役割です。目的を理解して、内容を常に追いかけ、的確な方向にメンバーを導く、というスキルを要求されるので、司会進行をやっていた時点で、ビジネスセンスのアピールになります。




7. 生産性向上
(保育業務の効率化)

単純に作業時間を減らした、というだけではインパクトがありません。そこに生産性向上の視点があった、ということが重要です。
生産性向上は主に、

  • 業務の質を下げすに、要員を減らしたり作業時間を短縮する
  • 作業時間を増やさずに、要員を減らしたり質を上げる
  • 要員を増やさずに、質を上げたり作業時間を短縮する

ということです。そこに自分のアイデアや提案、働き掛けがあることが重要です。

  • おゆうぎ会のダンスを園児に教える際、すべてスタッフが教えるのではなく、いち早く覚えた園児に、ほかの子を教えてもらった。スタッフは、踊りが苦手な園児を重点的に教えることができるようになった(時間を短縮して成果を挙げる)。教える役を与えられた園児は、できる自分を誇らしく感じていたようだ(時間そのままで達成感や気持ちの醸成、教育の質を向上)。
  • 保護者からのさまざまな問い合わせや質問に毎日各スタッフが回答していたが、この件数が非常に多く、負担になっていた。園内の掲示板に、「よくある質問」というコーナーを設けて、20個の質問/回答を掲示した。これにより質問は激減し、スタッフの業務効率がアップした。それだけではなく、同じ内容を園のホームページに掲載し、園内の掲示板には、「同じ内容がホームページにも記載されています」と表示したことにより、掲示板の前に人が群がる事態も少なくなった。

生産性向上に終わりはありません。ひとつ対策を施すことにより、さらにその先が見えてきます。あくなき前進の姿勢を見せると、会社には受けがいいでしょう。




8. 臨機応変な対応
(ルールにないことへの対応)

すべてをルールにのっとって進めるのが難しいことは、なんとなく分かっています。自分では気づかなくても、日々、臨機応変な対応はしているものです。
ルールにない事態が発生した場合の対応を迫られる場合や、聞いたこともないような奇抜な要求をしてくる保護者の対応をすることもあるでしょう。
何でもかんでも「上司に確認します」では、信頼を失ってしまいます。また、考えることを忘れて思考停止になってしまい、自分のためにも良くありません。
どのようにアピールすればいいでしょうか。

  • 1週間の中で、運動、学習、創作活動をまんべんなく取り入れるルールになっている。クラスの半数以上の園児が風邪で休んでいるため、室内体操を少し行い、保育時間の大部分を絵本の読み聞かせにあて、学習に差が付かないようにした。園児の何割が休みのときに特別カリキュラムを適用するか、ルールの追加を園長に提案した。ルールに沿うことが目的ではなく、現行ルールでの運用が不適切と判断した場合には柔軟な対応が必要になる。
  • 「園の出入口、ナンバーキー付の扉は、常に閉めておくこと」というルールがあった。朝のピーク時には、何十人もの園児が保護者と一緒に登園し扉を開閉する、という事実を鑑み、「ピーク時間帯だけは常に扉を開放」という例外を採用した。もともと交通整備を担当していたスタッフが、不審者の出入りも可能な限り見る、ということでまとまった。現状に合わせてルールを変えていく、という取り組みである。

ルールを守ることは大切です。しかし、何でもルールに従って柔軟性に欠ける人がいると、職場は何か新しい発想で物事を解決しようとしたときに、足かせになります。現実を見ながら柔軟に対応し、ルールを変えていく積極性も大きく評価されます。


まとめ

コミュニケーションや生産性の向上といった日常業務の中にある工夫から、新しいアイデアや後輩の指導といった限られた時間の中で発揮するものまで、たくさんのアピール材料があります。自分の業務には該当しない項目もあるかもしれませんが、観点はお分かりいただけたことでしょう。
自分の業務に重ね合わせながら、ぜひ面接や履歴書、職務経歴書の中でアピールして、会社でも通じるビジネスセンスを保有していることを伝えてみてください。