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会社の昇格・昇進論文で典型的なテーマである、
職場における私の役割と課題
の類いのお題。
「会社の利益」「顧客満足」などの特定の主題ではなく、リーダークラスになる上での当事者意識や総合力が試される難しいお題ともいえます。

本ページでは、このお題に必要な記述のための考え方について解説し、論文例を1つ紹介します。

会社の採用試験、昇進試験などの対策に関する記事一覧はこちら

出題側がこちらに求めていること

論文を書く前にまず前提を確認します。
この論文は、昇格・昇進試験ですから「この人は課長やリーダークラスの適性があるか」を見極める目的があります。これが最大の目的と思っていいでしょう。

リーダークラスになる上で把握しなくてはならないことは、会社によっても異なるとは思いますが、主に以下のようなことです。

  • 組織運営に強く関わる
  • 部門や会社の利益向上を図る
  • 業務を回し効率を上げる(生産性向上)
  • 部下を育成する(人材育成)
  • 新しい価値観で物事を取り入れる
  • 会社や部門方針に忠実に沿う

リーダークラスに昇格するには、これらの観点をいくつか押さえた論文にする必要があります。出題側は、論文の中にこれらに関する記述が、解答者自身の言葉で書かれているかをチェックします。「自身の言葉」というのは、どこかからもってきた定型文ではなく、自分のシチュエーションのベースで書かれているか、ということです。

ほかにも、以下のようなビジネススキルがあるかチェックする会社も多いでしょう。

  • 限られた時間で自分の考えを表現できるか
  • 文章の論理的な構成は的確か
  • 主題に対してとしてふさわしい記述か
  • そもそも文章力・語彙力があるか

論文に関する基本的なことや全般的な解説は、以下の記事をご参照ください。
会社の論文試験に合格する! 昇進試験、採用試験での論文の書き方のコツ、対策を解説

自身の会社が昇進に対して、どのような要件を求めているか、会社の規模によって異なるケースもあるので、以下のコラム記事も参考にしてみてください。あくまで目安です。
会社規模によって、社員の業績評価・昇進の要件はこのように視点が異なる

役割と課題の考え方

お題は「職場における私の役割と課題」ですから「役割」と「課題」がテーマになっています。しかし「職場における」というまくら言葉があるので「役割」と「課題」の一般論を展開した論文ですと、減点になりますので注意してください。職場での自分を記述します。お題を一字一句読んで、何を質問されているか確認しましょう。

「役割」と「課題」は明確に切り分けるのが難しく、とらえ方が重複する部分もあります。
STARメソッド、という有名な考え方があります。
状況 Situation
課題 Task
実行 Action
結果 Result
「○○な状況で、課題は△△であった。そのために□□を実行したことで、✕✕の結果をもたらした」
という論理的な表現になります。
ここで「課題」は「状況」から生まれたミッションや問題点などが含まれます。このように、会社で明確なとらえ方が推奨されている場合には「課題」を限定的に書きます。
しかし「役割と課題」が主題だと考えると、「課題」の部分で問題提起をして終わってしまい、論文として成り立ちにくくなります。
したがって、ここでは「課題」の部分に「実行」に関わる要素を含ませることで「課題」に自分の意志を含ませることができ、論文として中身が伴ってきます。
「実績」を書かせる論文であれば「結果」までかけますが、「今後の取組み」についてであれば「このような結果をもたらすと考える」という記述になります。

自身の会社で、書き方のトレンドがあるはずです。論文練習の前に、最低限の前提条件は確認しておきましょう。
この記事での「私の役割」は、組織内での立ち位置や、推進するミッションのようにとらえています。
「私の課題」は「役割」から落とした具体的なアクション、つまり実行する内容で記述します。「私の課題」といっても、「私」にばかりフォーカスするのではなく、「課」や「組織」にフォーカスした上での「私がやること、考えること」で記述したほうが無難です。それも事前のリサーチが必要です。

では、あくまで一例ですが、生産性向上や人材育成などの上位概念から、自分の職場での役割と課題に落としていきます。

人材育成

職場における人材育成です。課長やリーダーポジションになるためには「後輩の指導」より1つ上の観点でとらえます。つまり「課・チーム全体の育成」というとらえ方であれば、リーダーポジションとしての適性を感じさせることができます。

私の役割

  • 課として任務を遂行する上で必要なスキルや専門領域を明確に把握し、課の中心ポジションとして、課員に不足している部分を補うよう推進する
  • 課としての今後の可能性を予測し、数年先を視野に入れた人材育成を推進する

私の課題

  • 課員のモチベーションは人によって異なるため、全員に一律の教育でスキルアップを期待するのは難しく、各々の適性を考慮した育成の検討が必要
  • 自身の課ができること、できないこと、できたら実現することなどを詳細に把握できていないため、課の将来を見通した上での育成プランが必要
生産性向上

人材育成からつながるストーリー、人材育成をベースとした生産性向上だと書きやすくなります。人材育成とは切り離して、工夫だけで実現できるならそれでもOKです。

私の役割

  • 課業務の円滑な遂行に常に目を配り、無駄や改善点がないかを見極め、業務効率やアウトプット品質の向上・改善を推進する
  • 課員の現スキルやインフラをもとに、将来的な課機能の付加価値向上を推進する

私の課題

  • 現在の遂行上の問題について課員へヒアリングを行い、改善の余地を確認し、できる施策と実現性を明確化・実行する
  • 他部門から期待されている事や時流に乗るべき課業務、それに対する現状との差異を明確にして補填し、リソースを維持したまま課機能の強化を図る
組織の活性化

人材育成や生産性向上の実現には、課の全員が同じ目標に向かって足並みをそろえる必要があります。モラルやモチベーションを維持・向上、課を盛り上げる意気込みを表現します。

私の役割

  • 各課員に課の目標を共有して意識させ、一丸となった風土を醸成する
  • 課が組織としてもつべき風土、あるべき姿を明確にして、それを維持する仕組み作りを推進する

私の課題

  • 課員各々が自分の仕事だけを淡々と遂行する風潮があり、横のつながりが希薄。忖度なしで意見交換を行う機会を設けるなどで、課内の風通しを改善する
  • 一時的な風土盛り上げではなく、あるべき姿を課員の負荷なく維持できるようにしたい。そのために最適な仕組みを作り、課員みんな守り抜く風土を醸成する

一例でした。自身のミッションに当てはめてみてください。




書き始める前に要約メモを完成させる

論文はいきなり書き始めるのではなく、どのような流れで書くか概略をメモ書きして作戦を練り、そこから詳細内容を膨らませていくやり方が望ましいです。
今回は「人材育成」「生産性向上」「組織の活性化」をテーマに挙げて要約メモを作成します。

前書き

  • 職場での現在の自分、業務の概略
  • 自分のありたい姿の概略
  • 自分の役割と課題の概略

人材育成
役割

  • 課の中心ポジションとして課員のスキルアップと、先を視野に入れた人材育成を推進

課題

  • 各々の適性を考慮した育成計画の検討
  • 人を動かし、課の将来を見通した育成プランの検討

生産性向上
役割

  • 業務効率やアウトプット品質の向上・改善を推進と、将来的な課機能の付加価値向上を推進

課題

  • 課員へヒアリング、改善の余地を確認、施策と実現性の明確化・実行
  • リソースを維持したまま課機能強化をする

組織の活性化
役割

  • 課の目標を共有した、一丸となった風土の醸成

課題

  • 横のつながり希薄⇒意見交換会開催、課内の風通し改善
  • あるべき姿を維持する仕組みを作り、みんなで守る風土

結論

  • 私の考える役割と課題は3つのカテゴリー
  • 今後、実務だけでなく、課全体・人・取り巻く環境を見て、未来を見て仕事をする

ここまで書ければ、あとは実情に即した具体策や自分の気持ちなどの肉付けで論文ができます。文字数は多くなりそうなら、たとえば「生産性向上」のパートは不採用にしたり、各役割・課題の項目を1つずつにしたりして、文字数を減らす工夫をします。
まんべんなく広い視点で書くほうがおすすめです。「生産性向上」まるごと削ると、その役割・課題は感じていないことになりますのでバランスよく書きましょう。「1つのことを掘り下げて論文じることがよい」とされている会社であれば、1つに絞って問題ありません。いずれにしても人材育成・生産性向上・組織の活性化をはじめ、課長としてもつべき視点のカテゴリーを網羅的に書けるようにしておきます。「人材育成」を削って、「生産性向上」の中に「部下に任せて自主性をもたせる」といった「人材育成」の要素を入れる、といったこともできます。

論文を書いていくと、メモ書きと少しずつ内容ずれていくことがあるかもしれません。メモ書きはあくまで全体の骨格なので、おおまかな流れができていれば、厳密にこだわる必要はないと思います。




あえて触れない題材

今回取り上げない記述事項をお話ししておきます。
課長として最も重要なことは「組織を円滑に回す」ことだと筆者は考えます。しかし、あたりまえなの事なので、論文の題材として取り上げて論じても、あまり映えません。ありふれた記述だと「用意してきた定型文」となり高得点を狙うのが難しくなります。
あと、現在思考・未来思考の考え方です。まず目の前にある課題を解決する現在思考。中長期的な視点での取り組みである未来思考。この観点で掘り下げると論文が長くなったり、ボリューム調整でその他の各論の内容が薄くなったりします。また階層構造が複雑化して読みにくくなります。
ご検討ください。

論文記述例

要約メモをもとに論文を実際に書きます。先にも述べましたが、「実績」記述パターンと「今後の取組み」記述パターンがあります。ここでの論文例は、後者の「今後の取組み」として書きます。論文試験で「実績」の記述を求められているなら、「~のような結果となった」「~をもたらした」というテイストで書けばいいと思います。

たいてい会社の論文試験では業務の細かいことは書かないほうがいいです。ただしある程度の前提条件は必要なので自分の所属部門を設定します。
自分のポジション|営業担当者
テーマ「職場における私の役割と課題」

以下の比率を心掛けて書いてみましょう。
序論 2
本論 7
結論 1

(ここから論文)

法人営業担当として8年間、販売促進や営業企画をはじめとする営業全般の業務に従事してきた。ここ1年は、顧客が抱える問題の早期解決を進めるソリューション推進が主なミッションとなっている。

私はソリューション推進チームのリーダーとして、3人のメンバーを指揮して日々顧客対応にあたっている。リーダーとしてチーム業務を円滑に回す、という多忙な中であっても顧客からは一定の評価を頂いている。自分がこれまでに培ってきた経験や知識を体系的にまとめ、そのノウハウをメンバーに周知した結果として顧客満足が得られたと考えている。
現状ではまだチームとしての課題もあり、今後はリーダーとしてさらに大きな成果を上げる必要があることも認識している。

これまで自らの実績も上げ、リーダーとして小さなチームの運営を回してきた経験をもとに、今後は大きなプロジェクトや課といったより大きな組織を率いていくことを目標とする。

現在のチームの改善や今後の大人数の組織マネジメントを視野に、私はおおまかに以下のことを念頭に置いて業務に取り組んでいる。

  1. 人材育成
    メンバー個々のスキル向上とチーム全体の力量向上
  2. 生産性向上
    全員参加のもと、アウトプットの質と量を改善
  3. 組織の活性化
    風通しの良い、働きやすい職場作り

これらに対する役割・課題とは、以下のような意味でとらえる。
役割 : 担うべき立場や推進事項
課題 : 未解決事項と具体的任務

1. 人材育成
◎私が考える役割
課の人材育成推進の中心ポジションとして、任務遂行に必要なスキルや専門領域を明確に把握し、課員の適切な力量管理、組織の発展を推進する。
◎私が考える課題
課題は、各々の適性を考慮した人材育成の推進である。
現在の課では各担当者の力量がばらばらで、スキルの高い担当者に業務が集中、その担当者不在時に誰も案件を理解できない、といった状況が多発している。そのため、スキルが不足している課員に対し苦手領域を補い、個人のスキルアップと全体の底上げを行うことが必要と考えている。まず課業務のカテゴリーごとの全員の力量管理を確立する。その上で各担当者の業務領域の中でのスキル不足に対し、本人の意向も踏まえ具体的な教育プログラムを策定する。実際の教育は、そのスキル領域に長けている担当者からの個別教育やOJTを想定している。これにより教育側の担当者にも、知識の確認や教育者としてのスキルアップが見込める。私は関連の諸部門と良好な関係を築けているため、当該部門に知見のある人がいれば、依頼も検討する。
さまざまな手法で個々の力が向上することにより、組織としての全体の力量が上がり、発展へとつながる。
本人のモチベーションや実力的な配慮も必要である。あまりなびかない担当者には、小さなミッションを与えたり、本人からの希望を聞いて可能な限り応じたりしながら、徐々に育成することを考えている。人材育成は人に対して実施するものであるため、手法を間違えるとモチベーションダウンや不満につながる恐れがある。ゆくゆくは異動願いや退職願いへとつながりかねない。自身が行う人材育成も、それを部下に委ねる場合も、組織の健全な存続のためには慎重に進めることが重要である。

2. 生産性向上
◎私が考える役割
業務効率やアウトプット品質の改善・向上、将来的な課機能の付加価値向上を推進することである。
◎私が考える課題
課題は、課員へのヒアリングをもとにした改善余地の確認と、数年先を見越した最新トレンド導入である。
まず、営業現場やオフィスワーク全般の課題を課の各チームリーダーにより抽出する。その中から、改善可能な案件に対して各チームまたは課全体でブレーンストーミングや協議を行ってもらい、改善の方向性や目標を示してもらう。私は世の中のオフィスワークトレンドや最新インフラ、IT機器などを調査し、各チームの観点の漏れや検討不足などを指摘する。自らの参加も心掛ける。
実際当課では、顧客とのトラブルや非効率な事務処理による、類似問題の再発などが顕在化している。課題の解決・改善のためには、業務標準書の見直しや徹底、トラブル&解決事例集などの新たな構築、近未来的な手法による業務遂行のトライアル、などが必要と感じている。
標準書や事例集はチームリーダークラスに一任し、自らは適宜修正指示や助言を行う。基盤が整い、ミスが減少すれば、たくさんの営業案件をさばけるようになり、アウトプット量増加が見込める。
近未来的な手法の開拓では、IT部門や外部と密にコンタクトを取り、リーダークラスと連携した遂行を考えている。営業手法や新規市場開拓、ソリューションに現在検討中の最新のIT機器・手法の導入を実現することで、リソースを維持したままアウトプットの質が向上する。また課機能をさらに強化する具体策も策定でき、数年後の課としての存続・発展を確たるものにしていく。
アウトプット品質の向上のためには、課題の抽出による問題解決・無駄を省き基盤固め・新案による更なる進歩、という手順で着実に実行に移したいと考えている。

3. 組織の活性化
◎私が考える役割
課の目標を共有した、一丸となった風土の醸成することである。
◎私が考える課題
課題は、方針の明確化と、横のつながりがある働きやすい職場作りである。
当課は、担当者個人がそれぞれに動く傾向が強く、横のつながりがやや希薄になっている。横の会話が少ないと、お互いの見識の理解がそがれるだけでなく、必要な情報共有も不足してしまい組織風土が低下する。組織風土醸成のため、意見交換会や営業実績発表会など、課内の風通し改善を行うことを検討中である。
現在、課のミッションステートメントはあるものの形骸化している傾向があり、刷新が必要と感じている。ミッションは毎年更新されるが、似たような文言が並び、課員一人ひとりにその根拠やエッセンスが浸透しているとは言い難い。ソリューション営業のユーザー視点を盛り込んだ重点項目を新たに策定し、課員にその本質的な理解を促す。各自の業務が課のミッションに直結していること、全員が同じ目標に向かっていることを共有してもらう。そのためのあるべき姿を可視化し、横のつながりを仕組みとして構築する。
組織風土醸成には、基本として仕組みを作り、そこに向かって全員が軸足をそろえることができるよう定期的な会合の場を設ける。それが一堂に会さず、たとえオンラインであっても、お互い活発にコミュニケーションを図れる機会を常に提供したい。課の長として、課員の業務に支障をきたす状況を改善し、「働きやすい職場」として組織風土を醸成していく。

私の考える、職場における役割と課題は、人材育成・生産性向上・組織の活性化、の3つのカテゴリーである。これらの中には、人に寄り添う、人に任せる、人を動かす、といった要素が基盤となっている。1つの課の長として、人と一緒に日々の仕事をすること、人が組織を形成することを常に意識し、円滑な組織運営を目指す。人の要素のほかにも、問題解決や仕組み作りなどの業務処理にも、部下に目配りをしていく。最新の知見の活用や世の中の標準を取り入れる、といった時流に乗った動きを取り入れて切れ味の良い遂行を心がけたい。
今後は、自らの定常業務だけでなく、課全体・人・取り巻く環境を見て、未来を見て課運営に携わりたい。

(論文終了)

序論   約530字
本論 約2160字
結論   約290字

おおよそ 2:7:1、バランスのいい比率で書けました。




まとめ

「職場における役割と課題」という論述では、リーダーに求められていることを把握し、自分の言葉で書くことが重要です。自分のリーダーとしての軸を定め、会社の文化として求められる人材育成・新規市場開拓といったテーマに沿って、大儀と現状把握、具体的方針などを的確に記述することです。
文章力そのものを見られる場合もあるので、伝わりやすく、全体のバランスも考えます。
昇進・昇格論文は、会社によって求められる論述のスタイルが異なることが多いので、事前のリサーチを怠らないことです。本記事での論文例はあくまで一例ですので参考として読んでいただき、自身の会社のスタイルにうまくはまるようにしてみてください。