Pocket

本記事では、品質保証や検査、評価、テスティングなどの職種の人が書く論文を解説します。論文例もあります。
品質系の仕事でも、技術系も営業も、取り上げる観点は同じですが、解説を品質系寄りにしています。




論文の視点

会社の昇格試験の論文では、企画、総務、開発、そして、品質保証、書く視点は同じです。
もちろん職種が異なるため、扱う題材は品質保証系の業務の特有なものになります。しかし、その視点には、
・生産性の向上
・人材育成
・組織風土の活性化
・会社の発展に向けた取り組み

といった、会社が社員に求める定番の切り口が必要です。最終的にはどの職種も同じ視点の論文に仕上がります。
しかし、論文の質問文にない要素を書きすぎると、採点者に、「この人は用意した文を書いているだけだ」と見抜かれて減点対象になってしまいます。たとえば、質問文では、「後輩の育成」について問われているのに、「業務の効率化」や「品質向上」が目立つような文になるのは良くない、ということです。「結果として業務の効率化も一緒にくっついてきた」くらいの記述にとどめます。




何を書くべきか

普段の取り組みの中で、スケールの大きい生産性向上や、課やチーム全体を動かしたような取り組みがあれば、そのネタを扱います。論文の題材として、
・書けそうな業務
・工夫が必要そうな業務
をそれぞれ列挙してみます。

■書けそうな業務(レベルの高い業務)
・数人の評価スタッフをまとめた
・開発、技術、生産部門と協業した
・評価規格適正化の取り組みをした
・問題の再発防止取り組みをした
・海外拠点品質部門の作業標準を作成した

■工夫が必要そうな業務(ルーチンワーク寄り)
・製品の根本的問題を発見した
・日程通りに評価メニューを完遂した
・やりにくい評価作業を改善した
・評価データまとめを効率化した
・評価サンプル置き場を整理した

検査、評価系の業務はルーチン化していることが多く、なかなか目にとまるような活躍をすることは難しいのが現実です。「かなり書けそう」な例は、その前提に、業務を改善して生産性を向上する、スタッフをまとめてリーダーシップをとる、などがあります。論文のテーマにうまくはめ込みやすいです。
しかし、「工夫が必要」な例では、論文の題材として利用するには小粒感があります。
多少内容を大きく見せるテクニックが必要になります。

論文を書く上で気を付けたいことがあります。どんなに優れた取り組みであっても、それに至った経緯やプロセスや、自分がどのような切り口に視点を置いていたか、をテーマに沿って明確にする必要があります。
すなわち、小粒な取り組みであっても、背景や視点が明確で、部門や会社の発展につながるように書けばよい、ということです。

例を挙げます。
論文のテーマで、
「自ら行動して成果を上げた取り組みを説明しなさい」
と出題された場合に、先程の業務例を当てはめてみます。

■かなり書けそうな例
・数人の評価スタッフをまとめた
⇒自らすべてをやるのではなく、メンバーの適性を見てうまく担当を割り振り、定期的に個別進捗管理を行った。チームとしてひとつの目標に軸を合わせた。

・開発、技術、生産部門と協業した
⇒検討品評価の視点を自ら事前に開発設計チームに自らインプットし、検証漏れや評価やり直しによる商品リリース日程遅延が発生しないように進めた。

・評価規格適正化の取り組みをした
⇒明らかに性能に問題がないのに、評価規格に沿うとNGになる。規格がオーバースペックだと判断し、自ら提言して他部門を巻き込み規格の改訂に動いた。

・問題の再発防止取り組みをした
⇒検査で不具合が多発し、前モデルでの失敗が生かされていない。自ら不具合リストを作り、開発設計、製作部門と共有し、再発防止案の提出を依頼した。

・海外拠点品質部門の作業標準を改善した
⇒ある検査を日本で実施するとNG、海外拠点で実施すると合格する。手法に不備があると見極め、自らの提案で、現地評価担当部門と作業手順書改訂を行った。

普段、ルーチンワークをメインとして仕事をしていると、会社の利益や部門全体を動かすような実績を上げることは難しいのが現実です。
とはいえ、行き当たりばったりの処置を書いても評価されません。日頃から会社の利益や人材育成など会社の発展を意識した行動の結果として実績が上がったことを書きます。小さな実績でも構いません。職位が低ければ、数多くの部門を巻き込んだ活躍は難しいです。しかし、目的と結果の整合性があれば、いずれ職位が上がったときに、そのパフォーマンスのスケールも上がる、と論文の採点者は見抜きます。
したがって、次のような視点を盛り込めると、上昇志向の高さをアピールできます。

・効率化提案で評価チーム全体の作業時間短縮
・工夫したやり方を他メンバーに標準展開
・問題の処置ではなく、根本解決の仕組み提案
・自分の働き掛けで周りに影響を与える

ルーチンワークでの小さな実績を、うまく書いてみます。

■工夫が必要な例
・製品の根本的問題を発見した
⇒いつも不具合の処置が主だったが、品質向上と工数削減を目指していたため、問題多発の根本的原因を発見し、自ら部門を通して上流設計にインプットした。

・日程通りに評価メニューを完遂した
⇒不具合やメンバー休暇による評価日程遅延が常態化していた。自ら要員調整とメニュー再検討をリーダーに提案し、日程短縮して期限までに評価を完了した。

・やりにくい評価作業を改善した
⇒評価完了がいつも日程ギリギリなので、日頃から効率化が必要と考えていた。最も時間のかかる作業を自らリーダーに提案し、評価工程短縮を実現した。

・評価データまとめを効率化した
⇒評価データまとめのスピードが担当者によってバラバラなので、自ら手法を効率化し、手順を確立して他メンバー誰がやっても同じ工数になるよう改善した。

・評価サンプル置き場を整理した
⇒置き場がいつも満杯で、新規検討品置き場の確保にみんな時間を要していた。区画整理、管理の仕組みを自ら提案して作り、全体の作業時間短縮を実現した。

ルーチンワークの些細な業務でも、目的意識を明確にする書き方により、論文の記述に使えそうな切り口になりました。このような書き方で、出題に対して要約メモを書きます。

論文テーマは、
「会社が発展するためには、社員一人ひとりが指示待ちではなく自ら行動することが求められます。
自ら行動して成果を上げた取り組みを説明しなさい。」
です。

要約メモ

前書きにも必ず触れます。前書きの中に「発展」というキーワードがありますから、取り上げる項目には、常に「会社の発展」を目的としている書き方をします。
要約メモを書くための項目を確認します。

■前書き
 ・自らの行動の必要性
 ・自ら行動して会社が発展する
■自分の仕事
■自らの取り組み
 ・事例1
 ・事例2
■まとめ
 ・内容のまとめ
 ・自分の今後の目標

このような流れで要約メモを書きます。

■前書き
・自ら行動する必要性
指示待ちでは、現場で発生する問題の解決や、より良い手法での作業改善が出来ない。自らが考えて新しいアイデアを提案して行動することで、新しい成果を創出。
・自ら行動して会社が発展する
会社が発展するためには、新しい事業や取り組みが必要。その事業や取り組みを推進するには、社員教育だけでは足りず、自らが率先して学ぶ必要あり。普段の業務や問題解決の中で、新しい課題が生まれ、担当者レベルで率先して行うことで、事業の推進を維持、向上できる。
■自分の仕事
輸送機器用ユニットの製品開発段階での性能評価
■自らの取り組み
普段から、会社の発展の下支えになるよう、製品評価の最適なプロセスを提案しながら、業務に当たっている。
・事例1 不具合再発防止の取り組み
前モデルでの問題解決が生かされていない。評価、判断の工数が多い。再発防止取り組みを自ら提案。上司、設計開発、プロジェクトリーダー。徹底フォロー、刈り取り。
結果、問題指摘件数、2割減。作業工数は3割減。
インプットだけでなく、依頼先部門の動きを自ら促進がよかった。

・事例2 評価データまとめの効率化
溜まった計測データの処理、まとめ時間が長い。担当者間のスピード差もある。日頃の心配。誰がやっても同じまとめ方法を自ら提案し、各メンバーへの統一手法遂行の働き掛け。周りへ影響を与える。スタッフ全員が新しい手法を習得。育成にもつながる。
データ処理手法の効率化、確立、標準化。評価日程策定の安定化。

品質評価業務の安定化⇒商品リリース日程の厳守⇒会社の収益体質安定化(機会損失の防止)⇒安定した発展につながる

■まとめ
・内容のまとめ
指示待ちでは、問題解決や新しいアイデア創出は難しい。一人ひとりが積極的に、自ら行動を起こすことで、新たな手法、新たな業務展開、新たな事業へとつながる。
会社が発展する新たな事業を後押しするためにも、自発的に発想、提案して支える。
・自分の今後の目標
今は担当者レベルだが、自らの積極的な行動でメンバーにたくさん影響を与えたい。指示待ちではなく、自分で考えて行動、提案する姿勢を見せる。メンバーをまとめていきたい。目の前の業務処理だけでなく、会社の利益、発展を念頭において自ら行動したい。

■ポイント
・品質保証の細かい業務は書かない
・取り組みの視点が重要
・会社や部門の発展を念頭に置いた姿勢を強調
・部門のメンバーや他部門を巻き込んで影響を与える
・会社の発展、自ら行動、をまず前提に述べる




論文例

(論文ここから)

会社の業務では、自ら行動する必要がある。
自ら考えて行動することで、
・現場で発生する問題の解決
・より良い手法での作業改善
・アイデアを創出して新しい成果を出す
といったことが実現できる。自らの行動とは反対に指示待ちでは、解決や進展は難しい。

会社が発展するためには、社員一人ひとりが自ら考えて行動しなくてはならない。会社の発展、つまり新しい価値の創造や利益の向上には、新しい事業や取り組みが必要であるが、その事業や取り組みを推進するには、社員教育だけでは足りない。社員自らが新しいことを率先して学び、これまで以上にスキルを上げないと、部門として実務を遂行することは難しく、新しい価値にも軸が合っていかない。普段の業務や問題解決の中で、新しい課題が生まれ、担当者レベルで率先して行うことで、事業の推進を維持、向上できる。
また、多くの社員の率先した取り組みが付加価値を生み、新たなビジネスや事業に展開される可能性も出てくる。
このように、会社の経営層発意での新たな取り組み、社員からのボトムアップによる事業展開の、いずれのケースにおいても、社員一人ひとりが自ら行動して業務に取り組むことが必要である。

私の仕事は、輸送機器用ユニットの製品開発段階での性能評価がメインである。日頃から、安定した商品リリースによる、会社の発展の下支えになるよう、製品評価の最適なプロセスを提案しながら、業務に当たっている。
本業務において自ら行動して成果を上げた取り組み事例について、ふたつ説明する。

■事例1 不具合再発防止の取り組み
製品性能評価では、前バージョンのモデルでの問題解決が生かされておらず、同様の不具合や、類似不具合の発生が続いていた。これにより、評価期間や、判定までの関連部門との協議が長期化し、妥協策の適用や、対策見送りといった事態が常態化していた。品質評価が後手にまわることにより、商品リリースの日程も遅延し、会社の利益確保への機会損失を招き、会社の発展を阻害する要因となり、課題となっていた。
品質、リリース日程共に、品質部門として改善する必要があり、不具合再発防止取り組みを自ら提案した。上司、設計開発、プロジェクトリーダーなど、キーパーソンとキーセクションを巻き込み、自らかじ取りを行い、取り組みを推進した。再発防止具体策を講じる実行部隊には、定期的に進捗フォローを徹底し、確実な成果の刈り取りに心がけた。また、自らも品質部門の立場でアイデア出しや施策の提案を行った。
結論として、今期の新製品プロジェクトでは、類似問題はゼロには出来なかったものの、同様不具合はゼロ、トータル不具合報告数は、前モデル比で2割減となり、評価工数はおよそ3割減の結果となった。
今回、関係者や部門への取り組みインプットだけでなく、依頼先部門の動きを自らフォローし、活動を促進したことが、良好な結果をもたらしたと考える。

■事例2 評価データまとめの効率化
評価作業を終えた後のまとめ業務は、データ量が多く、数日の期間を要していた。また、担当者によって処理スピードにも大きな差があった。データまとめの期間については特に問題視されていなかったが、この数日を短縮できれば、開発設計部門への早急なフィードバックが可能となる。商品リリースの早期化または品質部門としての高付加価値ミッションを追加できる。
これに対して業務効率化を提案した。作業期間を短縮し、かつ誰がやっても同じまとめ方法になるような手法を導入した。ひとりでは困難であったため、主力スタッフに協力を仰ぎ、共に作業の効率化と標準化を確立した。新手法での作業手順は、自らスタッフ全員に説明し、従来の作業工数を半分まで短縮することができた。新しい手法での業務も定着し、スタッフ全員のスキル向上にもつながった。
結果として、商品のリリース日程短縮とはいかなかったが、余剰時間を、他プロジェクトへの応援やスキルアップ勉強会へ充当することができ、部門としての業務品質が改善された。評価日程の策定もしやすくなり、日程のリカバリーが少なくなった。
日常業務の課題を日頃から客観的に観察し、自ら改善提案をすることで今回の業務品質向上へとつながる結果となった。

品質評価業務を安定化させることは、商品リリース日程の厳守を確たるものとし、会社の収益体質を安定化させる。そして発展へと導かれる。

組織のなかで仕事をする上で、指示待ちでは問題解決や新しいアイデアを生み出すことが難しい。一人ひとりが積極的に、自ら行動を起こすことで、新たな手法、業務展開が生まれ、新たな事業へとつながる。会社が発展する新たな事業を後押しするためにも、自発的に発想、提案して、自らが成長しなくてはならない。
今は私は担当者レベルだが、自らの積極的な行動でメンバーや、関係部門にたくさん影響を与えたい。指示待ちではなく、自分で考えて行動し、提案する姿勢を見せ、メンバーをまとめていきたい。目の前の業務処理だけでなく、会社の利益、発展を念頭において自ら行動したい。

(論文ここまで)
いかがでしたでしょうか。
ふたつの事例は、
事例1 レベル高めの業務
事例2 ルーチン業務
でした。

何度も練習して、合格を勝ち取ってください。