梱包・包装という技術領域は、直接携わっていないとなかなか知る機会のない分野だと思います。
少なくとも、箱のサイズを決めて中に製品を入れるだけではありません。
この記事は、文系職種の方や、理系でも包装技術に馴染みのない方が、包装設計・包装技術についておおよそのエッセンスを理解できるような内容になっています。数式や難しい計算例を用いた解説ではありません。
「包装技術」は包装・梱包に関わる技術全般のことで「包装設計」はその設計や検証に関わることですが、ここではまとめて「包装設計」と呼ぶことにします。
包装の必要性、その役割は3つ
包装は製品をただ包むだけではなく、明確にその理由があります。主に以下の3つです。
- 製品を保護する
- 製品の荷扱いをする
- 販売を促進する
衝撃・振動・荷重、雨・湿気、ほこりなど、外部から製品に加わるさまざまなダメージを防ぐ
取っ手をつける、複数個1セットにまとめる、安定して置くなど、効率的にハンドリングする
外箱に商品名やデザインを施すことで製品に魅力を付加し、見た人に「買いたい」と思わせる
世の中の商品のすべてに上記3つが漏れなく該当するわけではありません。しかし製品に対して上記のいずれかに該当する場合は、ふさわしい包装をしたほうがいい、ということになります。
この「ふさわしい包装」というところが、包装設計の難しさであり、おもしろさでもあります。
包装に必要な部品とその材料
包装部品にはどのような物があるでしょうか?
代表的な材料と共にいくつか挙げてみます。
- 外箱
- 緩衝材
- パレット
- 袋
- テープ・固定部材など
段ボール箱や厚紙の箱が主流。木製の箱、プラスチック製の箱などもある。「外装箱」と呼ぶことが多いが、製品1セットずつ梱包する箱を「個装箱」、個装箱を複数個入れる箱を「集合箱」などと呼ぶ。輸送される際の集合箱は段ボール箱が一般的。
製品を保護するためのクッション材で、箱の中に敷き詰められている。発泡スチロールが主流。折り曲げた段ボール、エアキャップ(プチプチ)、エアバッグ(空気を充填してシーリングしたポリシート)、各種発泡プラスチックなど、さまざまな種類がある。
絵の具のパレットではなく、日常的には目にする機会は少ない。たくさんの梱包箱をたくさんまとめて梱包する部材。長距離の輸送や海上輸送などが目的。木製やプラスチック製が主流。
ポリエチレン製の袋が一般的。製品を入れる袋、小さな部品を入れる袋で厚さが異なることが多い。袋が外箱の代わりになる商品も多い。密閉用に表面にアルミをコーディングしたものや、静電気防止のために炭素を含ませたものなどもある。
製品が輸送中にバタつかないように固定する。テープにはセロテープ、頑丈に固定するポリエステル製の工業用途のものまである。固定部材は、プラスチック部品や段ボールシートなど多種多様。
これら以外にも紙や保護フィルムなどがありますが、特に高い品質が要求されるときに使用されます。
包装設計の方法をかんたんに解説
製品包装の段階を見てみたいと思います。包装段階が進むにつれて規模が大きくなります。
製品の個装梱包
まずは、製品1セットを梱包するイメージです。
集合箱の梱包
次に、その製品梱包状態の箱を複数個セットで集合箱に梱包します。
集合パレット梱包
次に、その集合箱複数個をパレットに積載し、集合パレット積載状態にします。
製品の寸法によっては集合箱が存在せずに個装箱だけをまとめてパレットに載せたり、パレットに対して個装箱1個だけを載せる場合もあります。
コンテナバンニング
最後に、その集合パレット積載の貨物を海上コンテナやトラックに載るだけ載せます。搬入することを「バンニング」と呼ぶことがあります。
包装設計の手順
1つひとつの包装部品を設計するところから始めるのではなく、全体の系を考えてから進める必要があります。
- 製品1セットのサイズ感から考えて、個装箱のおおよその寸法を想定する
- 個装箱寸法→集合箱寸法→パレットの外寸法を概算する
- 海上コンテナの標準寸法をもとに効率良く積載できるようなパレットの外寸法と集合箱寸法を微修正する
- 逆算した集合箱寸法をもとに、個装箱の寸法を見極める
- 個装箱寸法をもとに、製品との隙間に収まる緩衝材の設計、箱の必要強度算出と材料選定を行う
- 最終的な個装重量から算出してパレットの構造設計を行う
個装箱のねらいの寸法が決まってからが、包装設計の本格的な「設計」の始まりになります。
ちなみに、すでにできあがっている梱包形態に修正を加える場合、または部品や製品をただ包めばいい、などの状況であればその包装部品を設計するところから始めても十分です。
包装設計の内容
先ほど「個装箱のねらいの寸法が決まってからが本格的な包装設計」と書きましたが、その包装設計には以下の設計行為があります。
- 外装箱の設計
- 緩衝材の設計
- パレットの設計
1つずつその設計概要を解説しますが、決して独立した設計行為ではなく、それぞれが密接に関わっています。外装箱の構造を変更したら緩衝材形状にも影響しますし、緩衝材の厚さを増やしたかったら外装箱寸法にも影響します。
3次元CADを使用して設計を行うことが普通です。
ここでは設計の細かいやりくりではなく、各包装部品の設計方法の概略を解説します。
外装箱の設計
外装箱を設計するには、前提となる条件を用意するところから始めます。
必要となる箱強度がどれくらいかを決めます。この「強度」とは、箱を段積みしたときに箱の上に何kgまで積載しても潰れないか、を表す強度です。
強度の前提条件が用意できたら、その強度を満足する箱の構造や材質を決めます。
電化製品のような重量物なら強度をもつ段ボール箱を、菓子や文具などの軽量物では厚紙や薄いプラスチック製の箱を選定することが一般的です。小型の軽量物では、1セット用の箱に強度をもたせた設計をすることは稀で、個装の箱を複数個まとめて梱包する集合箱のほうに強度をもたせます。集合箱は、強度のある段ボール箱です。
段ボール箱の強度は、箱の形や段ボール紙材料がもつ特性などから算出します。算出した段ボール箱の強度が、こちらの要求する強度以上であることを確認します。安全率をいくつに設定するかも重量なポイントです。
菓子や文具などの軽量物より、電化製品などの重量物の箱選定のほうが設計難易度は高いです。
緩衝材の設計
緩衝設計を行います。緩衝設計とは、衝撃が加わった時にその衝撃を吸収して内部の製品を保護する部品の設計です。
緩衝材には発泡材料や段ボール、ゴム材、エアバッグなどさまざまな種類がありますが、緻密に緩衝計算して最適な品質保証を行うのは発泡材料です。主に発泡スチロールです。
外装箱と同じく前提条件が必要です。製品そのものがどれだけの強度をもっているか明らかにします。梱包状態で落下させたときにどれくらいの高さまでの落下衝撃なら保証するか、どのような落下を何回想定するか、などを決めます。
前提条件がそろったら、それら各条件、製品の重量、選定する発泡材料の特性値などから発泡緩衝材の厚さや製品への受け面積を算出します。あとは緩衝材の詳細形状を決めます。
パレットの設計
パレットは木製とプラスチック製が主流ですが、積載物の重量などを考慮して最適な設計を行う必要があるのは木製パレットです。
外装箱や緩衝材と同じく前提条件が必要です。積載物の重量と形状、パレットのどの部分にどれくらいの荷重がかかるかを明らかにします。できれば、そのパレットがどのような荷扱い環境におかれるか調査することが理想です。
前提条件が決まったら、ブロックや板材などの組み合わせにより、パレットの部材構成を検討します。材料強度や材料特性から梁の計算をしたり、強度確保の難しい板材の下にブロックをあてがったりします。
部材の結合のための釘打ち箇所や本数検討もします。
その他の包装設計検討
数式による算出や構造の設計とは異なりますが、以下のような検討事項もあります。
- 同梱アイテムのリストアップや配置
- 包装量産工程にふさわしい仕様の検討
- 最終梱包品の物流事情の把握
- 最終梱包品の品質検証
- 設計部品の製造工程の確認
- 採用部品のエコ対応
- 部品点数やコストを最小限に抑えた設計
- 販売促進目的の外箱の外観意匠デザイン
ほかにもたくさんあります。メーカーによって包装設計エンジニアがどこまで掌握するかは異なります。少なくとも上記の事項くらいはエンジニア自ら把握しないと「井の中の蛙」状態になり、計算してCADを操作するだけの職人さんになってしまいます。包装設計そのものから離れたさまざまな領域を網羅することにより、その設計センスが磨かれていきます。
包装設計の難しさ、大変さ
包装設計は製品設計より立ち位置は下に位置付けられる傾向があります。立場の難しさもありますが、設計業務的な難しさをいくつか挙げます。
- コストを最小限に抑えて要求品質を満足させる
- 計算結果をもとに構造を実現できないことがあり、チョイスできる材料の範囲で実現させなくてはならない
- 正しい理論で設計したつもりでも、実機での検証は一発ではうまくいかないことが多い
- 検証がうまくいっても、市場での物流トラブルにより包装設計問題と突きつけられることが多い
- 実機での検証パスはもとより、理論でも完璧・鉄壁の設計裏付けをもっておく必要がある
- 基本ルール・規格・設計手順などを熟知しただけでは足りず、ものづくり・機械工学・物理学・物流事情などの周辺知識や経験、設計センスも要求される
- 包装設計部門に対して、製品設計・製造・品質・物流などさまざまな部門から困難な要求をされることがある
包装設計の楽しさ、やりがい
包装設計職は、楽しいことより大変なことのほうが多いと考えられます。その中で自分がいかにやりがいを見つけていくかが大切です。楽しさ、やりがいは以下のようなものです。
- 自分の設計した成果物で製品をお客さまに届けることができる喜びがある
- 製品から個装包装、コンテナ輸送まで、スケールの大きい系を把握できて視野が広がる
- 3次元CADのオペレーションに慣れると、自分の思い描く包装形態を可視的にモデリングでき、創造力を磨ける
- 包装技術は機械・材料・製造・品質・物流・環境・量産など関連する領域が非常に多く、設計業務を通して製品化が実現する過程を知ることができ、見識が広がる
- 自らが設計した包装形態にて検証が合格した瞬間や、大量生産が軌道に乗ったときは、苦労が報われた感、満足感がある
まとめ
包装技術・設計業務は簡潔に以下のようにまとめることができそうです。
包装の目的は、製品保護・荷扱い・販売促進という3つの側面があり、外装箱・緩衝材・搬送用パレットをはじめとした部品により包装の仕様が構成されます。
包装設計の職務は、製品を梱包する包装設計を行うところから海上コンテナに積載するところまで、広い範囲を扱います。その中で多くの職務の人たちと関わり、幅広い見識を身に付けられるメリットがある反面、その調整は大変です。設計業務には基本の学問や技術全般の知識、経験、センスが要求されますが、慣れてくれば自分の考える包装形態を実現できるやりがいのある仕事でもあります。
これから包装技術に関わる人、関心のある人は本記事でそのエッセンスを感じていただけましたでしょうか。本記事を読むだけでは設計はできませんが、より深く知りたい人は書籍や専門のWebサイトでの学習を進めてみてください。